1970年代のホラー映画ブームにおいて、名だたる作品に肩を並べるのが『悪魔のいけにえ』です。
オカルトや死者のよみがえりなど、超常的なものに依存しない人間の人間による人間のためのホラー映画です。
超常現象てんこもりの作品に比べて、どのようなホラー演出が行われているのでしょうか?
あらすじ・作品情報
旅行中の若者たちがテキサスの片田舎でふと立ち寄った一軒屋で出会った殺人鬼一家。実際に起きた事件を基に、これが商業デビューとなったフーパーが、アングラ的な中にエキサイティングな演出を見せて観る者を圧倒させる。
レザーフェイスと呼ばれる、人の顔の皮を被り電動ノコギリをふりかざす大男の存在感と、狂気に溢れたショッキングな幕切れに、以降のホラーに多大な影響を与えた。
引用元:Yahoo!映画
1974年に公開された映画です。
なお、本作品はR15指定となっていますので、ご注意ください。
『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』の予告編
『悪魔のいけにえ』の良かったところ
リアル寄りの演出
超常現象を排した「実際に起こりうる恐怖」を描くためか、過剰な演出は見受けられません。
特に音声は簡素なもので、襲撃シーンを盛り上げるためのBGMもなく、効果音だけで淡々と進んでいきます。
BGMがなく、部隊が田舎とあって静かなため、チェーンソーの作動音だけが異常な迫力をもってとどろきます。
レザーフェイスによる襲撃も、主人公を追いかけ回す時以外はあっさりとしたもので、ぬっと現れてはハンマーによる一撃で仕留めていきます。
通常のホラー映画なら男性キャラが抵抗しそうなものですが、屈強な大男による頭部への不意打ちなので、男性陣の一撃ダウンもやむなしです。
ハンマーによる一撃は地味ですが、それを補ってあまりある派手さがあるのがチェーンソーによる襲撃。
ホラー映画の殺人鬼がチェーンソーを使ったはしりです。
そして一番怖いのが、人体で作った家具やフェイスマスク(のようなもの)が実際に存在したという事実。
直接的なモデルではないようですが、エド・ゲインという異常な殺人鬼が「事実は小説より奇なり」を地でいく殺人や死体集め、加工をしております。
今作ではさらに自体を食料にも加工しているようで、その異常性は図抜けています。
恐怖のほか、生理的嫌悪感をもよおす異常さなのです。
レザーフェイスというスター誕生
悪魔のいけにえといったらやっぱりレザーフェイス、その人気さゆえ続編も制作されています。
人間を狩り、死体を掘り起こす一家自体が恐ろしいものの、その中でも人の皮で作ったマスクとチェーンソーがトレードマークのレザーフェイスは別格です。
巨体ながらも俊敏で、軽々とチェーンソーを振り回す様子はまさに化け物。
ぺらぺらと喋ったり、意思の疎通ができそうだと相手の怖さが薄れますが、レザーフェイスは無口なのでそのへんはばっちりですね。
変態殺人一家の気持ち悪さ
レザーフェイスのインパクトが強い変態殺人一家ですが、その他の面子もなかなかに強烈。
ターゲットをマークする役目とおぼしきヒッチハイカーは挙動がうざすぎの上に怪しすぎですし、見た目は普通のガソリンスタンドのおっさんも、グリルしていたものの材料がなにかを考えると嫌悪感しかわきません。
そして伏兵的は気味悪さをもっているのが、じい様と呼ばれる一家の祖父(父?)。
生きてるんだか死んでいるんだかわからないぐったり具合と、謎のマスクをかぶっているような顔、そして若い女の血だけは熱心になめる執念。
血のつながりがあるのか実際わかりませんが、このじい様あればこそ、この変態殺人一家ありといった印象。
レザーフェイスをはじめとする他の面子が、じい様とよばれる彼を大事にしていることが、過去のすごさを物語っています。
変態殺人一家が住む家は、無数に散らばる骨で埋め尽くされ、設置された家具には人体の一部が使用されています。
悪夢と狂気が支配するような一軒家です。
その乱雑さや汚れた様子からも、血とアンモニア、腐敗のにおいがむっとのぼってきそうです。
粗いフィルムの質感でその一軒家と住人をとらえ、ここぞとばかりに目まぐるしいカメラワークが続き、不快な効果音が加わるので、直接的なグロ描写はおさえめなものの、良い意味で気分が悪くなる作品です。
迫真のセクシーノーブラ追いかけっこ
ほとんどの登場人物が一撃で仕留められる中、主人公だけは一撃死を回避し、ひたすら逃げまどいます。
この時のおびえた表情や悲鳴が、簡単に仕留められてしまった仲間の分を肩代わりしたかのごとく、長時間に渡ってフィルムを彩ることになります。
のどから血が出るんじゃないかと思うくらい、主人公を演じた女優は叫びまくり、恐怖にひきつる表情や、涙ぐんだ目をひたすらカメラが追い回します。
他の殺人描写がおかゆのようにあっさり目なのに比べると、主人公を追うレザーフェイスとカメラの執拗さはダブルロースカツ定食みたいなこってり感。
迫真の演技をとらえ続けます。
顔は血まみれ、髪はボサボサ、目は血走り、フラフラになって逃げ回る主人公を気の毒に思いつつも、一定数の視聴者はそのノーブラ姿に気もそぞろ、おびえる表情が逆にセクシーに見え、エロとホラーの親和性を感じるシーンなのです。
殺人鬼VS逃げまどうヒロインのひな形作成に寄与した作品といえるでしょう。
1970年代の風潮なのか、戦うヒロイン感はなく、ただ逃げるだけです。
とはいえ、変なマスクをかぶった屈強な大男がチェーンソーを振り回しながら迫ってきたら、大の男でも逃げると思います。
実際、最後に巻きこまれたトラックの運転手も逃げてますし・・・。
『悪魔のいけにえ』のイマイチなところ
あっさり殺しすぎ?主人公サリー以外に見せ場なし
ハンマーによる頭部への不意打ちがほとんどなので、多種多様な殺人鬼やクリーチャーによる工夫を凝らした殺し方に慣れ親しんだホラー映画好きにとって、物足りなさを感じる出来です。
もちろん爆音とどろくチェーンソーを携え肉薄する様子は大迫力なのですが、当時は斬新でも時代が進んだ今となっては同じようなチェーンソーの使われ方がちらほら見られるため、公開当時ほどのインパクトはありません。
チェーンソーによるインパクトを取り払ってしまうと、あとはひたすら地味。
チェーンソーによる残虐描写もないにひとしいので、あとは殺人一家の異常性とおぞましさで勝負する感じに。
叱られてびびるレザーフェイスの人間くささ
登場人物に感情移入するためには、キャラクターの人間くささが必要です。
どこまで共感を得られるかによって、視聴者がどこまで物語にのめりこめるかが変わってきます。
ただ、人間くささが大事とはいっても、主人公たちを追いかけ回す得体の知れない殺人鬼が人間くささを出していては興ざめです。
コミカルな作品だったら、叱られてびびる大男の姿は大正解なのですが、いかんせんこれはホラー映画。
何か超常的な力が働いているかも知れない不気味な存在が、肉体が頑強なだけの使いっ走り的存在だと分かってしまったら恐怖も半減です。
徹頭徹尾リアルな描写や設定にこだわり、ホラー演出など二の次であれば致し方ありません。
しかし、今作はれっきとしたホラー映画であり、演出にもこだわっています。
なぜ、あのような人間くささをまぎれこませたのか謎なのです。
「これは超常的なものが関わる物語ではない」と言いたかったのでしょうか?
伏線の中途半端な回収
リアル寄りの作品だけあって、登場人物による親切な解説がないので、視聴者は断片的な情報を集めて判断するしかありません。
冒頭のニュースで流れた死体泥棒に関しては、殺人鬼一家の会話内で示されているものの、別の建物で焼いていた肉の正体やヒッチハイカーがつけた印の意味、一体いつから人間を襲っているのかは触れられていません。
伏線回収がはっきりと行われないため「多分そうなんだろうなぁ」と視聴者はふんわりとした着地点を探すことに・・・。
リアル路線と、視聴者への親切さを天秤にかけて、リアル路線に傾倒してしまった形です。
ラスト近辺で巻きこまれたトラック運転手の安否も描かれておりませんし、もやっとしたまま終わる映画なのです。
『悪魔のいけにえ』はこんな人にオススメ
『悪魔のいけにえ』は下記のような人にオススメできる映画です!
こんな人にオススメ
- リアル寄りの作品が好きな方
- チェーンソー殺人鬼の元祖を確かめたい方
- 1970年代の雰囲気が好きな方
- アメリカのさびれた田舎が好きな方
- 戦うヒロインより逃げまどうヒロインが好きな方
- うざさ炸裂のアイツがひかれるさまを見たい方
- じい様の動く死体的気持ち悪さを堪能したい方
『悪魔のいけにえ』を視聴できるVOD
『悪魔のいけにえ』が見放題対象となっているオススメVOD(ビデオ・オン・デマンド)は、下記の通りです。
オススメVOD
- Amazonプライム・ビデオ
- U-NEXT
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『悪魔のいけにえ』のまとめ
映画『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』について、ご紹介しました。
田舎の不気味な一軒家で、若者たちが襲われるという定番ストーリーの生みの親はではありますが、時代遅れとなった感は否めません。
リアル寄りの演出のため、レザーフェイスのチェーンソーによるインパクトや殺人一家の生理的な気持ち悪さに依存しています。
そこにホラー映画的な面白さを感じないと、主人公がひたすら叫んで逃げまどうだけの映画となってしまいます。
あっさりとした殺害シーンと、こってりとした絶叫シーンを両方含むアンバランスな作品でもあります。
総合評価
最後までお読み頂きありがとうございました。
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