1970年代のオカルトブームの一翼を担う映画が『エクソシスト』です。
ただ単に娯楽としての恐怖を視聴者に届けるだけの作品ではなく、社会性や構図としての美しさをもっている名作でもあります。
また、数々のパロディ作品やシーンをうみだした、偉大なるネタ元でもあります。
ただの娯楽作品にとどまらぬその内容に迫っていきましょう。
なお、本記事はネタバレを含んでおりますので、ご注意ください。
あらすじ・作品情報
女優クリスの12歳の娘リーガンはある時から何かに憑かれたかのようにふるまうようになる。
彼女の異変は顕著になるが、病院の科学的な検査でも原因は判明しない。
やがて醜い顔に変貌したリーガンは緑色の汚物を吐き、神を冒涜するような卑猥な言葉を発するようになる。
悪魔が彼女に乗り移ったのだ。
その後、リーガンの前にふたりの神父メリンとカラスが訪れ、悪魔祓いを始めるが……。
世界中にオカルトブームを巻き起こした戦慄のホラー映画。
引用元:映画.com
『エクソシスト』の予告編
『エクソシスト』の良かったところ
無惨なほどの「悪魔つき」演出
物語はリーガンという名の少女が、悪魔に取り憑かれたことによって動き出しますが、それまでの無邪気そうな少女と、終盤のすさまじい形相との対比が見事。
元々愛らしい顔立ちをしていただけに、傷だらけとなった後の痛々しさは顔をそむけたくなるほどです。
特殊メイクによって、顔は傷だらけとなり、唇は裂け、髪は腐ったモップのようになり、歯と爪は獣のように鋭く、瞳も人間の範囲を超えた不可思議な色をしております。
外見の変化だけではなく、数々のショッキングシーンが、悪魔の狡猾さ非情さ超常性を表現します。
有名な逆さ階段降りは何度観てもぎょっとしますし、緑汁の吐瀉は、生理的な嫌悪感を誘い、十字架による自傷シーンは徹底的にティーンの少女を(精神的にも)傷つけています。
それ以前の診察シーンでも、痛みを想像できそうなシーンが多く「この監督はどこまで、この少女をいじめるんだろう」と監督の精神を疑うレベル。
とにもかくにも、少女が傷ついていく過程の残酷さは類を見ない仕上がりで、再視聴の筆者をもってしても、どうにか難を逃れたリーガンの姿に胸をなでおろしてしまいました。
それだけ執拗に傷つけられ、痛めつけられるのです。
印象的な映像
平凡なホラー映画と今作との違いとして、構図へのこだわりが挙げられます。
通常のホラー映画は「怖がらせるための構図」を念頭に置くでしょうが、この作品は何か印象的な、その後の展開を暗示するようなものが目立ちます。
導入部から太陽と石像の意味深なカットがあり、佳境ではホラー映画史上屈指の美しさを誇り絵画的でもある、霧に包まれたメリン神父の登場シーンがあります。
後者は「映画エクソシストといえばこれ!」と代名詞になるほど印象的なカットです。
幻想的な美しさとはかなさをもっており、物語を追っていた人にとっては、階段が意味する悪魔や誘惑をしりぞけることの困難さ、信仰を全うする道の険しさも感じることでしょう。
美しいだけではなく、どこか不安にさせる力も持っています。
今となっては、1970年代もだいぶクラシカルですが、それ以上の古さや異質感、非日常感がにじみ出ているのが特徴的です。
後世に残るBGM
先に触れたメリン神父の登場シーンを、より印象的なものに仕上げたものが、今でもテレビ番組で使われる、美しさと不安を感じさせるBGMです。
『エクソシスト』を代表する印象的なシーンの力と相まって、筆者はあの曲を耳にするたび、どうしようもない心細さに襲われます。
このメインテーマ(?)以外にも、ここぞという時に、不協和音入りのBGMが登場し、緊迫感を高めてくれます。
昔の映画はそういう傾向が強いのか、BGMがなく淡々と進行する場面が多いので、いざ楽曲や効果音が使われた時の対比は鮮やかです。
華やかな一家と清貧神父の対比
エンターテインメントしても一級品ですが、今作には社会性のあるドラマが組みこまれております。
一番わかりやすいのは、裕福なリーガンの家と貧しいカラス神父の対比。
有名俳優の母をもつリーガンは、金銭的には満ち足りた生活。
とっかえひっかえ治療を受けられる恵まれた環境。
ただし、父親は別居中で、両親は不仲です。
対してカラス神父は貧しく、狭いアパートで年老いた母親と二人暮らし。
親子の絆は強いものの、貧しさゆえ母親に満足な治療を受けさせられず、仕事のため親の死に目に立ち会えません。
金銭的な問題で母に最低限の医療しか提供できなかったことに責任を感じ、その死に打ちのめされた状態のカラス神父が、最先端の治療をガンガン受けても治らなかった裕福な一家の娘を診察(カラスは精神科医でもある)するわけです。
様々な約束事にしばられるカトリック教会側も、一方的に利用されるだけの被害者ではありません。
そもそも、リーガンに憑依した悪魔は、メリン神父からイラクからテイクアウトしたものなので、発掘した本人がエクソシストとして駆り出されるのは、因果応報にも似た流れでもあります。
カラス神父は母を失い、孤独の陰が色濃く出ます(特に顔)。
己の信仰に自信がもてなくなった状態で、人一倍の信仰心が試される悪魔祓いへ引っ張り出されることになります。
また教会内でも、前線に駆り出される側と、それを管理する側に距離があるような描き方をされています。
人に教えを説く側も決して一枚岩ではないと表現する、社会派のような切り口なのです。
決して派手すぎない悪魔祓いシーン
ヤマ場である悪魔祓いのシーンなのですが、CGが使えない時代ということもあり、アクション性の高い派手なものではありません。
社会性のあるドラマを含んでいる関係で、リアルな描写が求められるので、それが正解だと思います。
地味といっても、のちの世で散々パロディとして用いられた緑汁の吐瀉や首が半回転するシーンがあるので、衝撃的ではあります。
巨大な十字架でぶん殴ったり、交差した腕からレーザーが発射されたりしない、現実的な展開です。
後続のエクソシストものは大体、作品内のスタイルを模倣していると思われます。
効果的なサブリミナル風の演出
作品内では、不気味な悪魔の顔が一瞬だけ映るサブリミナル風カットを多用しています。
あくまでサブリミナル風と表現したのは、本来のサブリミナルカットは、目視できない瞬間的なコマを映像の中に忍ばせ、無意識下で行動に影響を与える手法だからです。
闇にすっと浮かんでは消える悪魔の顔は、不気味そのもの!
ほんの一瞬なので、特殊メイクのあらが目立つこともなく、効果的に恐怖を演出できます。
リーガン役の熱演
不憫という表現ではなまぬるい目にあうリーガンに同情してしまうのは、憑依前とその後の対比があってこそ!
リーガンを演じたリンダ・ブレアはこの作品で一躍有名になります。
どのくらい有名になったかというと、日本でリリースされたホラー映画に『リンダ・ブレアのグロテスク』という邦題が付くぐらいです。
『エクソシスト』を未視聴だった少年時代の筆者は「リンダ・ブレアって誰?有名な監督かな」なんて思っていましたよ。
いくら演技とはいえ、あれだけの目にあったのでリーガン役を応援したくなるのは分かる気もします。
ちなみにリンダ・ブレアは、テレビシリーズの『エクソシスト』にも出演しているみたいですね。
『エクソシスト』のイマイチなところ
説明なしの時間経過
人物に語らせたり、字幕で説明するでもなく、暗転後のシーンでいきなり時間が進んでいるので、このあたりは不親切です。
直後の話も、数週間後の話も同じようなシーンのつなぎ方をされております。
時系列通りに物語が進むため、大きな混乱はきたさないんですが、現代の親切設計な映画になれた人は面食らうと思います。
メリン神父とリーガンのつながりが不明
なぜメリン神父がイラクから連れてきてしまった悪魔がリーガンに取り憑いたのか、そのつながりは詳しく描かれていません。
メリン神父がもち帰った像の一部や、リーガンの住む教区の担当者が神父を知っていたぐらいで、それ以外の言及はありません。
別居中の父親が、カトリック的にどえらいことをやっていた設定なら、納得しやすいのですが・・・。
「TASUKETE!」って何?
カラス神父の生活を追うシーンで、どこかの施設に「TASUKETE!」と大きく書かれた紙が、目立つところに貼ってあります。
これは何の意図があったのでしょうか?
深刻そうなカラス神父との対比で、思わず笑ってしまう一幕です。
リーガンの心の声を表したのかも知れませんが・・・。
カラス神父の自己犠牲はやけっぱち?
悪魔祓いは、カラス神父の自己犠牲をもって一応の解決をみています。
自分に取り憑いてみろと挑発し、その直後に窓からいわくつきの石段へ身を投げたカラス神父の行いは尊いものの、それまでの心理的に追い詰められている描写や、リーガン(内の悪魔)につかみかかった時の様子から、「自己犠牲というよりやけっぱちだったのでは?」と思えてしまいます。
メリン神父が倒れ、つかみかかってからのくだりは、悪魔祓いでも、カトリックの秘儀でもないです。
カラス神父の人間的な弱さが出て暴力的な行動にはしったものの、それによってリーガンは救われたという皮肉な形なのでしょうか。
ドラマチックではありますが、すっきりとした終わり方ではないですね。
映画招待のくだりは何?
刑事が聖職者を映画に招待するくだりが二回あるのですが、ほぼ同じ内容の会話を繰り返しています。
時代背景からくみ取れる文脈があるのかも知れませんが、筆者は読み取ることができませんでした。
繰り返しで同じ要素を扱っている以上、何か意味があると思うのですが・・・。
ここもすっきりしないシーンです。
ディレクターズカット版の130分はさすがに長い!
アクション性に乏しい内容で130分というのはさすがに長すぎです。
動きが少ない前半部には、カラス神父の人物的な掘り下げが含まれているので、人間ドラマとしての一面も味わいたい場合は飛ばすわけにもいきません。
様々なパロディの元ネタとなった衝撃シーンだけつまみ食いをしたい人は、最初の30分は省いても問題ないでしょう。
『エクソシスト』はこんな人にオススメ
『エクソシスト』は下記のような人にオススメできる映画です!
こんな方にオススメ
- パロディの元となった有名シーンを観たい人
- オカルト好きな人
- ホラー映画に美しさを求める人
- リアル寄りの作品が好きな人
- 人間ドラマが好きな人
- じっくり視聴できる人
- 聖職者VS悪魔みたいな対決が好きな人
- 恐怖の演出を学びたい人
ホラー映画ファンなら押さえておきたい作品の1つです。
『エクソシスト』の口コミ
『エクソシスト』
オカルト映画の金字塔と呼ばれてるらしいけどその意味が分かった
もちろんホラーとして凄く怖かったけど、それ以上に映画としての完成度が高かった。小さい頃に見てたら絶対眠れなくなってた笑
時々でてくるサブリミナルにビビった
(゚O゚)#ホラー #オカルト #エクソシスト#映画 pic.twitter.com/6dGjGgEzD8— こう@映画垢 (@KKmovie1) 2018年10月29日
また観てる✨
飽きないわ~✨#エクソシスト #映画 #オカルト pic.twitter.com/vMV415hd6T
— しいな (@mikan3mikan3) 2018年5月1日
公開から44年経っても、
全く色褪せないオカルト映画。
この場面を見ると、内容とは正反対の静かなテーマ曲が聞こえてくる。 pic.twitter.com/Ca74TyUwZD— よっちゃん (@dragonhorse9240) 2018年12月9日
『エクソシスト』を視聴できるVOD
『エクソシスト』が見放題対象となっているオススメVOD(ビデオ・オン・デマンド)は、下記の通りです。
オススメVOD
- Amazonプライム・ビデオ
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『エクソシスト』のまとめ
オカルト系ホラーを語る上で外せない『エクソシスト』について触れて参りました。
人間ドラマや芸術的な構図や音楽を含んだ名作です。
息をのむほど神秘的で美しいシーンや数々のパロディをうみだしたホラー映画としての表現は、現代においても圧倒的な存在感をもっています。
ホラー映画を語るなら、一度は視聴しておきたい作品ですね。
総合評価
最後までお読み頂きありがとうございました。
この記事の著者の執筆作品
著書名:オブザデッドレビュー34発
電子書籍サービス:Kindle
紹介文:林立するゾンビ映画をひたすらレビュー!『○○オブザデッド』が多すぎて困っているホラー映画好きのあなたに送る一冊です。