19世紀の英国小説『高慢と偏見』をベースにし、2009年の小説『高慢と偏見とゾンビ』を原作にしたホラー映画が本作です。
ゾンビ要素のほか、恋愛要素や歴史要素、アクション要素も加わった欲張りな作品となります。
アイデア勝負の低予算映画とは比べものにならない資金が投じられた作品ですが、どんな具合に仕上がったのでしょうか?
それではレビューを行っていきます。
あらすじ・作品情報
18世紀のイギリスで、謎のウイルスが原因で大量のゾンビが出現し、人々を襲撃するという事件が発生。
田舎で生活しているベネット家の、エリザベス(リリー・ジェームズ)ら5人姉妹はカンフーを駆使してゾンビと戦う毎日を過ごしていた。
ある日、エリザベスは大富豪の騎士であるダーシー(サム・ライリー)に出会うも、高慢な振る舞いに嫌気が差す。
やがて、二人は共に戦うことになるが……。
引用元:Yahoo!映画
2016年に公開された映画です。
『高慢と偏見とゾンビ』の予告編
『高慢と偏見とゾンビ』の良かったところ
ベースである古典小説をしっかり踏襲
設定だけ借りて中身は別物という作品が多々ある中、19世紀の英国小説『高慢と偏見』の基本的な人物設定や、話の流れをしっかり踏襲した作品になっています。
物語の根幹となる「反発しながらもひかれあうエリザベスとダーシー」はしっかり描かれていて、配役もはまっている感じです。
意志の強さと知性のほか、戦闘力もあわせもつエリザベスが凜とした眉や、表情を隠しきれない大きな目をもつ人物として描写され、ダーシーも鬱屈した中に激しい感情を潜ませている様子がうまく演じられています。
二人の関係をゾンビによる危機が彩り、反発や衝突を経てから結ばれます。
エリザベスとダーシーの対立のほかに、本作ではもう一つゾンビに関する対立がもうけられており、それが良くも悪くも独自性を与えています。
ただのパロディに終わらないこだわりのシーン
風刺画を思わせるコミカルなオープニングは、恋愛と歴史とゾンビとアクション映画の要素を詰めこんだ、個性的な作品にぴったりです。
そして、ベネット家の姉妹は当時のたしなみとして東洋武術を身につけており、これが血みどろの戦いになりがちなゾンビとの戦闘に華を添えます。
ゾンビ相手の戦闘だけではなく、時にカンフー映画を思わせる格闘、時に時代劇を思わせる剣戟があり、アクション性の高い仕上がりになっております。
歴史映画としての側面もなかなかのもので、潤沢な予算がある作品だけあって、学生が手作りしたようなチープさは見られません。
石造りの建物と美しい庭の景色、それらしく見える兵士たちの服装が視聴者を待っています。
ベネット家の家族愛
ベースである古典小説からいくらか変更点があるようですが、しっかりとベネット家の家族愛が描かれています。
強欲のそしりは受けてしまうものの、娘たちを不自由のない資産家に嫁がせたいベネット家の母親は、娘たちみんなを愛していて、それぞれの幸せな結婚を願っています。
ベネット家の父親はのんびりしていて、強引なところもある母親とは対照的です。
娘たちに対して口やかましいことは言わず、遠くで優しく見守っているような愛し方です。
品が良く、いかにもお嬢様といった感じの長女ジェーンは、長子らしいおっとりした性格で、彼女がいる場所に華と和やかさをもたらします。
主人公である次女エリザベスは才気煥発。
知性と活発さをそなえています。
おっとりとした姉や妹たちを守ろうとする気持ちが人一倍強いです。
三女メアリーはエリザベス同様知性派ですが、大人しい性格。
原題の言葉で表現すればインドア派という感じ。
姉たちを敬愛しています。
四女キティと五女リディアは箸が転んでもおかしい年頃といった具合で、若い男を見かけたら噂をせずにはいられないタイプ。
いかにも純真無垢で子供っぽい感じは、姉たちを呆れさせると同時に、放っておけない魅力を放っています。
時間の関係で全ての姉妹に焦点が当たるわけではありませんが、長女ジェーンと次女エリザベスの人物は感情移入できるようきっちり描かれていて、ビングリーやダーシーがぞっこんになるのもうなずけるのです。
いい味出している脇役陣
ホラー映画としてみた場合、主役はゾンビたちです。
そのゾンビたちがあまり自己主張しないかわりに、脇役たちがいい味を出しています。
現実にいたらうっとうしがられるであろうおしゃべり牧師のコリンズは、毒にも薬にもならない太鼓持ち的なキャラですが、物語に変化を与えてくれます。
彼がおしゃべりやお世辞で俗臭を放つほど、孤独と表裏一体のダーシーの高潔さや、エリザベスの聡明さが引き立ちます。
おしゃべり牧師と結婚するエリザベスの友人シャーロットも、その俗っぽさがかえって人間味を感じさせ、美男美女と貴族ばかりの登場人物内で、視聴者の代弁をしてくれる位置のキャラクターです。
女性みんながエリザベスになって、身も引き裂かれるような大恋愛をしていたら、社会がうまいこと回らないでしょう。
地に足がついた性格と器量の持ち主だっていいんです。
ベースの小説ではもっと大人しいであろうレディキャサリンは、眼帯をつけ黒レザーのような衣装をつけた最強の女戦士という設定。
ここだけ異質な設定ですが、これまた俳優さんの迫力がすごくて、その凄みを前にしたら視聴者は黙って納得する他ありません。
有無を言わさぬ迫力をたたえているのです。
『高慢と偏見とゾンビ』のイマイチなところ
詰めこみ過ぎで各要素が薄い
本作は、歴史+恋愛+ゾンビ+アクションの欲張りスタイルで成り立っています。
欲張りといえば聞こえは良いものの、実際はあれこれ詰めこみすぎて、各要素が薄味になる困った状況になっています。
一番濃いものは歴史要素。
筆者は細かな時代考証ができるわけではありませんが、ぱっと見る限り建築物や衣装はきっちり作られているように見えます。
次に濃いのは恋愛要素です。
ベース小説『高慢と偏見』の展開がそのまんま使用されているので、その内容を知っている人はエリザベスとダーシー、ジェーンとビングリーの関係がどうなるのか分かっているので、恋愛要素でハラハラすることができません。
ゾンビ要素をどう感じるかは、視聴者がゾンビ慣れしているかどうかで変わります。
ゾンビに慣れてない人は「人の脳みそ食べるの?グロすぎない?」とびっくりするでしょうし、ゾンビ映画をよく観る人は「脳みそ狙うのは『バタリアン』っぽいな。噛まれてゾンビになるから感染系か」と冷静に分析してしまうでしょう。
ゾンビ慣れしている人にとっては、ゾンビ要素よりアクション性を濃く感じるかも。
ゾンビを大量に出してはいるものの、ホラー映画らしい恐怖演出もなく、ゾンビを無駄づかいしている感は否めません。
残りのアクション要素も、それだけで視聴者を魅了できるような質ではなく、どうにも中途半端です。
もちろんB級映画に比べたら十分なアクション性なのですが……。
誤解を招く橋爆破後のシーン
クライマックスで、人間の居住地とゾンビ大量発生エリアを分断するため、橋の爆破が行われます。
この時、エリザベスとダーシーの二人が爆発に吹き飛ばされながらも、ギリギリ居住地側に渡るのですが、人間側に渡れたのが分かりづらいシーンになっています。
というのも、エリザベスとダーシー二人の世界を作るため他の人々が画面に入らないよう撮影しており、最後の真上からのショットも人間がノロノロ動くので、ゾンビ側に取り残されたようにも見えます。
ダーシーは一般の兵士からすると上官なので、もし人間側に渡れていれば、その容態を確認するため何人か駆け寄ってくるはず。
それがないため、余計ゾンビ側に残されたと錯覚します。
恋愛要素のためリアリティが失われ、よくわからん状況を作ってしまった一例です。
ゾンビにも人間にも残酷なダーシー
冷酷無比なゾンビハンター的な立ち位置のダーシーですが、リディア救出時の作戦にひいた視聴者もいるのではないでしょうか?
いくら物言わぬ死体となったとはいえ、先日まで部下だった者の頭に大きな穴を開けて脳を取り出すなんて、ひどすぎます。
しかも、部下だった者の死体を傷つけてまで行った作戦が、「大人しいゾンビに人間の脳を与えて凶暴化させ、混乱を引き起こす」という荒っぽい上に、むごたらしいもの。
人間とゾンビが共存できる可能性を探っていたウィカムの方が、好人物に思える非道さです。
物語の中では徹頭徹尾「人間VSゾンビ」の対立が見られますが、ゾンビ=貴族になれない平民と置き換えてみると、その差別意識や残酷さが際だちます。
ゾンビが人間らしく暮らしている様子を描いているあたり、「人間VSゾンビ」という構図に何か寓意を感じるのです。
人間側から見るか、ゾンビ側から見るか、はたまた中立的な立場で見るかで印象が変わってくるダーシーの行いなのです。
『高慢と偏見とゾンビ』はこんな方にオススメ
『高慢と偏見とゾンビ』は下記のような方にオススメできる映画です!
こんな方にオススメ
- 19世紀の英国が好きな方
- ホラー映画でも恋愛要素を楽しみたい方
- カンフー映画っぽい動きが好きな方
- 姉妹の物語が好きな方
- 戦う美人が好きな方
『高慢と偏見とゾンビ』を視聴できるVOD
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『高慢と偏見とゾンビ』のまとめ
映画『高慢と偏見とゾンビ』について、ご紹介しました。
たっぷりの予算をかけ、ゾンビ格闘恋愛歴史映画を作ったものの、ゾンビを含むホラー要素が薄くなってしまったのが本作です。
19世紀の英国を再現した建物や衣装やアクションにこだわりを見せますし、ベースの小説『高慢と偏見』をおろそかにしなかったのも高評価。
低予算作品が多いゾンビ映画の中では、かなりの完成度です。
しかし、メジャーどころが作った娯楽作品としては、詰めこんだ要素があまり相乗効果を生んでいない惜しい作品となっています。
総合評価
最後までお読み頂きありがとうございました。