日本では金縛りと呼ばれる睡眠麻痺状態に陥った人々が、得体の知れない何かに命をおびやかされるのが本作です。
夢と現実のはざまで襲われるという設定は、某有名ホラー映画に似ています。
オリジナリティーはしっかり出せているのでしょうか?
あらすじ・作品情報
眠ると鬼婆がやって来るという新たな恐怖を描いたホラー。
米国内で健康体の人間が睡眠中に死亡する事例が多数発生。
原因は不明で、「悪夢死」として世間を騒がせていた。
アルコール依存症だったベスもまた、毎晩悪夢にうなされていたが…。
引用元:Amazon
2016年に公開された映画です。
『ドント・スリープ』の予告編
『ドント・スリープ』の良かったところ
体験している人は三倍怖い?睡眠麻痺時にやってくる何か
意識はあるのに身動きがとれない状態を、日本では金縛りと呼びます。
アメリカで睡眠麻痺と呼ばれているこの状態の時、鬼婆と表現される何かが危害を加えようとやってきます。
鬼婆というと、日本では野原に一人住み旅人を歓迎するふりをして殺す妖怪(または妖怪化した人間)のイメージがありますが、この作品での鬼婆は睡眠麻痺の時にやってきて首をしめる存在です。
身動きのとれない状態で襲ってくるぶん、こちらの方が手強いかも知れません。
劇中で人を襲う鬼婆のような存在は世界各国で報告されていて、主人公のケイトが助力を求めたハッサン博士も、モン族の伝承からその存在を確信し、様々な対抗手段を用意します。
フィールドワークや文献漁りで集めたであろう資料の束が、リアリティを高めてくれます。
次々と人を手にかけていく鬼婆の不気味さ、不吉さを表現する恐怖演出も用意されています。
ゆっくりと這いずりながら近寄っていくさまは、身動きのとれない被害者の恐怖感をあおり、絵画から黒い血の涙がドクドク流れ、そこから姿をあらわす様子は人知を越えた存在であることを示します。
対鬼婆の準備とやつれ具合
鬼婆対策の専門家といえるハッサン教授の準備した装置が、なにげに充実しております。
他の学者からはオカルト扱いされているものの、麻痺睡眠時の襲撃を回避する方法は科学的で、実際に首を絞められて酸素供給が途絶えたあと、何分で脳に障害が出るかまで計算して自分の睡眠をコントロールしております。
四ヶ月間まともに寝ていないハッサン教授のやつれぶりも真に迫るものがあり、ホラー映画としてのリアリティや迫力を高めています。
専門家ではありませんが、ネットで鬼婆対策についてビデオ配信をしていた人の変貌ぶりはハッサン以上。
一年以上寝てないという彼は致死性の不眠症にかかっていて、精神、肉体ともに壊れかけています。
見た目は生きる屍のようです。
実際に致死性の不眠症があるのかわかりませんが、圧倒的なリアリティから「さもありなん」と、視聴者の大多数は納得できるでしょう。
鬼婆を回避するため不眠症になってしまった彼の姿を見て、「眠れるっていいね」と安心して眠りにつける喜びを感じたのは私だけではないはずです。
精神も攻めてくる鬼婆の厄介さ
れっきとしたホラー映画の今作ではありますが、女性主人公ながらホラークイーンの絶叫とは縁のない、落ち着いた作品になっています。
睡眠麻痺で動けなくなっているので、叫ぶどころかささやくこともできないのが実情だったりします。
大人向けの落ち着いた展開の中、じわじわと迫ってくる鬼婆は地味に強敵。
存在を信じなければ害は少ないが、対策を練った時点でその存在を認めていることになり、結果危機が迫るという厄介な存在。
存在は信じないが、対策だけは講じるという理屈の通らないメンタリティを持っていないと、無関係でいられません。
まるで感染症のようにベスの恋人エバンにも鬼婆の脅威が広がり、最初はその存在を信じていなかった彼にも魔の手が迫ります。
また鬼婆は罪悪感を弱点として攻めてくる狡猾さも持っているので、やさしく真面目な人ほど敵が強くなります。
「助けにきたよ」と亡くなったはずのベスに化けて出現する嫌らしさです。
ホラー映画界の中でも屈指の性悪なのです。
村上春樹も満足?双子の姉妹設定
活発なケイト、陰のあるベスの双子姉妹が主人公と見せかけておいて、ベスはあっさり殺されてしまいます。
姉妹が殺されたということもあり、残ったケイトは自己の安全も確保しつつ、ベスの仇討ちとして鬼婆に挑むという流れになります。
依存症に苦しんでいたベスを助けられなかった負い目があり、そこを鬼婆につけこまれます。
ケイトは年齢にふさわしい落ち着きをもったスレンダー美人なのですが、ちょっとした角度や表情で日本人好みのかわいらしさ、あどけなさもにじみ出てくる魅力をもっています。
シャワーを浴びるほんのりとしたサービスシーンもあり、女性主人公の強みを引き出しています。
『ドント・スリープ』のイマイチなところ
対決方法などが有名ホラーとかぶる
睡眠中に襲われるという設定は、有名なホラー映画『エルム街の悪夢』シリーズの設定とかぶります。
その存在を信じるとやってくるところも似ています。
寝ている最中に無理矢理起こすという対策もそっくり。
ただ、向こうはあくまで夢を見ている時に殺人鬼が出現するのに対し、こちらは睡眠麻痺という意識はあるが動けない状態なので、全く同じわけではありません。
夢の中のように自由に行動したり、自分の夢だから支配できるという設定もなく、その意味では今作に出てくる鬼婆は殺人鬼フレディ以上の難敵かも知れません。
今作では鬼婆対策としてかなり科学的なアプローチが用いられており、特にハッサン教授が用意した設備の数々は医学的な根拠に基づくものが多いです。
精神力ありきの『エルム街の悪夢』に比べると、格段にリアリティがあり、最低限の差別化には成功していますね。
アイデア丸ぱくりの作品ではないのです。
効果的ではあるが地味な首しめアタック
睡眠麻痺で体が動かない時にやってくるため、非常にたちの悪い存在である鬼婆ではありますが、その攻撃はいたって地味。
基本ずるずる這い寄って首をしめるだけです。
首しめは効果的な攻撃ではありますが、映像的にはかなり地味な部類に入ります。
絵画から流れる血の涙から現れたり、ベスに化けて出現したりと、精神をいたぶるような手段もとれるのですから、単純に這いよって首をしめるのではなく、もっと襲撃のバリエーションが欲しかったです。
夢と現実のはざまを生かし切れていない
同じく夢と現実にはざまで戦う『エルム街の悪夢』では、現実世界ではあり得ない幻想的なシーンを夢の世界に盛りこんでいました。
本作でもホラー映画的な演出はなされているものの、設定を生かし切れていない印象。
もっと一部視聴者の気分が悪くなるぐらいの強烈な映像を用意した方が、オカルトホラーとしてのインパクトが強まったかなと。
リアルに寄りすぎたためか、全体的に演出が大人しめ。
一部のホラー映画に多用されるびっくり系の演出も使わないのなら、もっとじわじわ系の恐怖演出を極めて欲しかったです。
じわじわ系という意味では、日本のホラー映画にやや近いかも知れませんね。
『ドント・スリープ』はこんな方にオススメ
『ドント・スリープ』は下記のような方にオススメできる映画です!
こんな方にオススメ
- リアリティ重視の作品が好きな方
- 金縛りを体験したことがある方
- 睡眠のありがたみを実感したい方
- 美人双子姉妹というワードに惹かれる方
- じわじわ系のホラー映画が好きな方
『ドント・スリープ』を視聴できるVOD
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『ドント・スリープ』のまとめ
睡眠麻痺時にあらわれる鬼婆に対抗する手段を求め、奔走する主人公を描いた今作は、じわじわ系のホラー映画です。
身動きがとれなくなった状態の人間に襲いかかる鬼婆というオカルト全開の存在を、科学的なやり方で撃退しようという、リアリティ重視の作品でもあります。
ホラー映画的なインパクトを重視する『エルム街の悪夢』とは異なる味付けですね。
不眠状態の登場人物のやつれ方は真に迫っており、安全に睡眠をとれる幸せを、視聴者に実感させる作品でもあります。
金縛りを経験済みの人はより恐怖を楽しめる作品ですね。
総合評価
最後までお読み頂きありがとうございました。
この記事の著者の執筆作品
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