1980年代でブームを巻き起こしたキョンシーにまつわる映画が本作です。
キョンシーの性質とコミカルさはそのままに、舞台は現代にアップデート。
1980年代の『霊幻道士』映画シリーズは子供向けの側面が見られましたが、現代版の霊幻道士はどのようなテイストなのでしょうか?
あらすじ・作品情報
香港の街を管理する清掃局を装いつつ、突如として出現するキョンシーを倒している政府秘密組織のキョンシー退治局。
ある日、学生のチョンティン(ベイビージョン・チョイ)は、祖父が勤める同局でアルバイトをすることになる。
個性豊かな局員たちのもとで修行する中、亡き母が自分を宿していたときにキョンシーに襲われたのが原因で、免疫があることを知る。
やがて、本部に運ばれた美しい女キョンシーがチョンティンにかみつき……。
引用元:Yahoo!映画
2017年に公開された映画です。
『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』の予告編
『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』の良かったところ
伝統芸的なコミカルさ
1980年代のブーム時もコミカルさがあり、不死のモンスターともいえるキョンシーが人を襲いながらも、子供が安心して(?)食いつける雰囲気がありました。
カンフー映画のようなアクションと、テンポのよいギャグが散りばめられていました。
本作もコミカルな仕上がりになっており、元々悲しいストーリーを背景にもつキョンシーや、主人公チョンティンやヒロインシウハーに関する悲劇的要素が薄められています。
キョンシーは元々『きょう死』と言われる存在で、奇妙な話を集めた清代の書物に登場する動く死体です。
1980年代のキョンシー映画でよく見受けられた、お札をはられたキョンシーたちが一列になって道士についていく姿は、出稼ぎ先で倒れた人を故郷につれていくため術を施された悲哀に満ちたものなのです。
他にも自然界に満ちた気が死体に入り、キョンシー化することがあります。
(清代の書物ではこちらが主流。本作でも自然界の気によって死体がよみがえります)
コミカルにも見えるはねるような動きは、死後硬直によって関節が機能しないための産物で、これまたもの悲しい背景があります。
しかし、数々の悲劇的要素を感じさせないコミカルさが全編に散りばめられているのです。
水中にいたキョンシーのシウハーは偶然主人公のスマホをのみこみ、搭載された音声応答機能によって美少女キョンシーとの会話もどきがなされます。
そして、非モテ系主人公の将来を心配する祖母を安心させようと主人公チョンティンは恋人プレイに挑戦します。
シウハーは言葉が喋れないため動物的なかわいさがあり、権力者のため生きながらにして埋葬された過去を感じさせぬ無邪気さもそなえていて、それが主人公はもちろん視聴者への救いとなっています。
真面目に設定だけ拾っていくと恐ろしく悲しい物語になりますので……。
アクション性も健在。師弟タッグによる胸が熱い展開
元々死体であるキョンシーには通常の攻撃がききません。
日光という吸血鬼のような弱点も存在しますが、道士による仙術が効果的とされています。
この仙術や清められた武器による攻撃と体術の相性が良く、アクション性が高い仕上がりになっています。
決して恵まれた体格とは言えぬ主人公チョンティンは、キョンシー退治局内で戦闘を担当する師匠の教えを受けるのですが、これがベストキッド的な修行となっていて、「戦闘と関係ないことをしているようで、対キョンシーの力がついている」ことが後半に証明されます。
また、力をつけた主人公と師匠がタッグを組み、ボスモンスターと化した凶悪キョンシーに立ち向かう展開は胸が熱くなります。
感情表現が不器用な師匠もいい味を出していますね。
世知がらいリアルさ
主人公チョンティンが所属することになるキョンシー退治局は、おおっぴらな活動はしないものの一応公的機関で、予算内でやりくりしなきゃいけないリアルさがあります。
秘密組織にありがちな「その予算どこから出てくるの?」という疑問は解決ずみなのです。
限られた予算の中で活動する公的機関でありながらも、前面に出る感じではなく、秘密基地のような地下で活動しております。
主人公が地下に初めて降りていくシーンはワクワク感がありますね。
キョンシー退治局についてはリアルな設定なので、それぞれ担当も決まっています。
1980年代のキョンシーブームの際は、道士が一人で何でも担当していましたが、今作は現代風にアップデートされます。
予算や、他の組織とのあつれきなど世知がらさというオマケもついていますけれども・・・
視聴後の気落ちに配慮した構成
主人公チョンティンや美少女キョンシーシウハーの境遇や最後の展開だけを見ると、圧倒的に悲劇的なのですが、コメディ要素やシウハーが転生したかのような退治局新人の登場で、視聴後の気落ちが緩和されています。
シウハーの体が残らず、日光によってサラサラとはかなく消えてしまったのも、きれいな終わり方に一役かっています。
シウハーに関しては、グロテスクな表現は控えめになっていますね。
エンディングもコミカルで、チョンティンとシウハーの物語をポップなスタイルでなぞっています。
悲劇的要素を押し出そうとせず、視聴しやすい軽めの作品にしようという制作陣の姿勢が見られます。
チョンティンとシウハーの重い設定に引きずられず、軽い視聴感に仕上がったのではないでしょうか?
『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』のイマイチなところ
キョンシー退治局の物足りない専門性
公的な機関として予算が組まれる前から、清代より連綿と受け継がれてきた対キョンシーの知識や技術が道士たちにはあるはずなのですが、専門家としての片鱗がかいま見えるだけで、妖怪好きには物足りなかったです。
キョンシーの図鑑的な分類など光るものはあったんですが、専門家しかいない退治局のすごみがもっと欲しかったのが本音です。
様々な要素を詰めこんだ映画なので、キョンシー関連の細かい情報を出せる時間がなくなってしまった感じでしょうか。
主人公チョンティンが異様なほど卑屈
この映画は主人公の成長を描いた作品でもあります。
成長物語としては、主人公が成長する前と後の振り幅があるほど分かりやすいのですが、それにしても序盤の卑屈ぶりがひどすぎます。
異様な卑屈さをギャグとしてとらえて欲しかったのかも知れませんが、あまりにもいきすぎていて、視聴者によっては不快感をおぼえるかも・・・。
両親がおらず、コンプレックスをこじらせている設定なのでしょうが、ファンキーかつあたたかな祖母の愛情をあれだけ受けていれば、あそこまで卑屈にはならないと思うのですが・・・。
あれこれ詰めこみすぎてぼやけた味つけに
ある意味欲ばりな作品とも言えるのですが、あれこれ詰めこみすぎて、全体としてはぼやけたテイストの映画になっています。
チョンティンの両親やシウハーの境遇には悲劇的要素が満ちていますが、コミカルな演出がそれを緩和しています。
アクション要素もありながら、スマホ依存による現代風刺、キョンシー退治局の予算や別組織との対立には社会風刺も盛りこまれています。
ベースとしては非モテ男が美少女(ただしキョンシー)をゲットする一種のファンタジーかつ成長物語でありながら、凶悪化したキョンシーによるホラー要素や一部グロシーンもあるという、詰めこみ過ぎ混ぜこみ過ぎの作品なのです。
軽めのコメディホラーとしては質が高いのですが、美少女キョンシー以外はあまり記憶に残らない作品と言えます。
『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』はこんな方にオススメ
『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』は下記のような方にオススメできる映画です!
こんな方にオススメ
- コミカルな作品が好きな方
- キョンシーブームを知っている方
- 成長物語が好きな方
- 美少女モンスター(?)に興味がある方
- カンフーアクション的な動きが好きな方
『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』を視聴できるVOD
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『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』のまとめ
映画『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』について、ご紹介しました。
1980年代のブームの際にもコミカルな味付けがされていましたが、現代版にアップデートされた本作もコメディホラーの名に恥じない軽い仕上がりになっています。
主人公チョンティンと美少女キョンシーシウハーに関する悲劇的な設定や、結末を感じさせぬコミカルな演出が散りばめられています。
青年チョンティンの年齢や、シウハーとの悲恋を考えると、過去のキョンシーブーム時に比べて、ターゲットとする年齢層は上がっているかな?
小学生が見るような作品ではなくなっていますね。
総合評価
最後までお読み頂きありがとうございました。