キャンプ場に向かう四名の男女というベタな舞台設定から、ひねりのきいた展開が飛び出すのが本作です。
その味付けはかなり特殊。
感染系ホラー映画としての恐怖と、ひねりのきいた展開は両立しているのでしょうか?
それでは、レビューを行っていきます。
あらすじ・作品情報
子供たちのサマーキャンプを明日に控え、山奥のキャンプ場を訪れた4人の指導員。
準備も終わり夜も更けてきた頃、突如指導員の1名が狂暴化し、奇声を発しながら他の3人に襲い掛かる。
皆で押さえつけようとするが、その瞬間ふいに平静を取り戻す。
不思議がっていると、また別の人物が突如狂暴化し…。
“狩る側”と“狩られる側”が無限に入れ替わる、シチュエーション・シャッフル・ホラー!
引用元:Amazon
2016年に公開された映画です。
『サマー・インフェルノ』の予告編
『サマー・インフェルノ』の良かったところ
ひねりを加えたブラックジョークじみた展開
本作のベースとなるのは、有名な感染系ホラー『28日後』のような凶暴化した感染者による襲撃です。
ウイルスによる感染ではないためか、人から人へひたすら伝染するスタイルではありません。
また、他の感染系映画のように、一度発症したらずっと凶暴なままではなく、効果時間が切れると、正気に戻るという珍しい設定です。
時間経過で凶暴化がおさまるので、ホラー映画としての恐怖はたかが知れていると思いきや、それを逆手にとって被害者と加害者の入れ替えを行っています。
「さっきまで襲われたけど今は普通。この人を信じていいの?」という不思議なシチュエーションが芽生えます。
途中までは凶暴化の原因が分からないので、純粋な感染系ホラー映画として楽しめますし、凶暴化の仕組みをばらしてからは、攻守(?)が入れ替わる不思議な展開を視聴者にプレゼントしてくれます。
クライマックスの自ら凶暴化を選ぶシーンなどは、まさにブラックジョーク!
シンプルなホラー映画にはない大人の苦みを与えてくれます。
スピード感も兼備した展開
ひねりだけではなく、スピード感も兼ね備えた展開です。
そもそもクラシックなロメロゾンビとは、趣がことなります。
襲ってくるのは変異ドラッグによって一時的に凶暴化した人間なので、感染者の動きが速く、じわじわと追い詰められる感じではありません。
親しい者が話の通じない何かに変異するという、ゾンビ映画的な要素もありながら、お互い疑心暗鬼に陥るサスペンス的な展開もあります。
なんとも欲張りな作品です。
感染した人間は動作も速いですが、兆候が出てから凶暴化が発現するまでも速く、さっきまで一緒に逃げていた仲間が、ちょっと目を離したすきに襲撃者側へ回ります。
アクティブ女子とお嬢様のダブルヒロイン
感染により襲撃者側に回ることもあるため、純粋なヒロインとは言いがたいのですが、二人の対照的な女性が物語に華を添えています。
一人は活発でアウトドアが似合うミシェル。
男性陣からも、キャンプ指導員としての素質を高く評価されています。
もう一人は「お嬢様然としている」と評されたクリスティです。
ふんわりとした魅力は備えているものの、空気の読めないマイペースなところがあり、なぜキャンプの指導員になろうとしたのか謎です。
男性陣からも脱落が予想されており、本人も不便な生活にやる気を失っています。
二人ともそれぞれに魅力があり、ひねくれた展開の中で渾身の演技を見せてくれます。
というのも、通常のホラー映画であれば、ヒロインは殺人鬼やモンスターに追われて、泣き叫んだり時に反撃すればよいのですが、この作品では凶暴化して襲撃者側に回るケースもあるので、演技の幅が要求されます。
そもそもヒロインが、黒い液体を吐いて襲ってくること自体が新鮮なのです。
切り替えが必要になる演技を、ウィルも含め良くこなしているのです。
『サマー・インフェルノ』のイマイチなところ
視点が定まらないことによる感情移入の難しさ
襲撃者と生存者が入れ替わるようなシチュエーションは確かに面白く、何より新鮮です。
そのアイデアは素直に脱帽です。
しかし、立場が入れ替わるがゆえに、感情移入がしづらいという弱点があります。
通常のホラー映画であれば、立場が明確に分かれており、視聴者は主人公たちに感情移入し、その無事を見守っていくことになります。
一方、本作ではメインの三名が一度は襲撃者側に回っていて、なおかつ感染源に触れれば再び凶暴化する可能性があるため、感情移入は難しいです。
登場人物への感情移入ができないと、彼ら彼女らが無事に生き延びるかどうか興味がなくなってしまうため、ホラー映画がもつ、手に汗握る緊張感が失われてしまいます。
ホラー映画としてとらえた場合、大きな弱点となっていますね。
良く分からない変異ドラッグの効果
短時間だけ人を凶暴化させる、変異したドラッグが騒動の元凶となっております。
科学的な根拠が提示されたわけではなく、その症状も曖昧なものになっています。
まず、人をかじっているので、純粋な凶暴性アップではありません。
確かに原始的な攻撃手段として歯が使われることがありますが、相手をノックダウンし戦闘力を奪ったあと、ガブガブかじるような描写が含まれています。
ええ、食ってますね、人。
参考にしたであろうホラー映画『28日後』ではあくまで、攻撃のみで捕食することはありませんでした。
本作では、人を襲い食らうゾンビ的要素が含まれているといえます。
しかし、武器を使ったり喋ったりしていることから、いくらか知性も残っているようなので、『飢え』が問題であれば人間を襲うというリスクが高いことをせず、ストックされている食料をあさるのではないでしょうか?
人を襲って食うゾンビ的な要素は、余計だった気がします。
ある程度知性が残っている人と、ひたすら暴れるだけの感染者に関する差も言及されていません。
感染や凶暴化についての情報が曖昧ですっきりしないまま、都合のいい展開が続くのです。
ミスディレクション?放置されている伏線要素
ミスディレクションのためか分かりませんが、手つかずの伏線要素が多いです。
狂犬病とおぼしき犬にウィルが噛まれていたり、主人公たちを外からのぞいているような視点があったり、拠点としている邸宅が荒らされている描写がありますが、これらが伏線として回収されることはありません。
ベタな殺人鬼ものにミスディレクションしたかったのでしょうか?
大量発生した謎の綿毛に関しては、作品内で触れられておりませんが、キノコの胞子である可能性が高いです。
しかし、全体的に説明不足の印象は否めません。
確かに、説明的なセリフのオンパレードには視聴者もうんざりしますが、あまりにも伏線要素を放置しすぎではないでしょうか。
ウィルの悲惨男子ぶり
確かに女癖が悪く、おとり作戦を実行するような自分勝手なところもありますが、メガネ男子ウィルがひどい目にあいすぎです。
序盤で狂犬病とおぼしき犬に指を噛まれ、その後は凶暴化した友人アントニオに襲われ、返り討ちにしたものの罪の意識に苦しみ、その後ドリルで足の裏に穴を開けられ、自分が凶暴化したと思ったら、メガネを壊され雑魚扱いされる始末。
監督はメガネ男子に恨みでもあるのでしょうか?
学生時代、メガネ男子に恋人を奪われたとか。笑
そんなメガネ男子ウィルの最期は、子供を含む凶暴化した集団に襲われるという凄惨なもの。
ちょっと悲惨すぎやしませんかね……。
『サマー・インフェルノ』はこんな方にオススメ
『サマー・インフェルノ』は下記のような方にオススメできる映画です!
こんな方にオススメ
- ひねりのきいた展開が好きな方
- あまり伏線にこだわらない方
- ロメロゾンビよりスピードのある感染者が好きな方
- ヨーロッパのひなびた景色や古い邸宅が好きな方
- メガネ男子ウィルがボロ雑巾になるのを確認したい方
『サマー・インフェルノ』を視聴できるVOD
『サマー・インフェルノ』が見放題対象となっているオススメVOD(ビデオ・オン・デマンド)は、U-NEXTです!
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『サマー・インフェルノ』のまとめ
映画『サマー・インフェルノ』について、ご紹介しました。
感染による短時間の凶暴化により、襲撃者側へと生存者側が入れ替わる感染系ホラー映画が本作です。
かなりひねりのきいた展開になっています。
科学的な根拠がなくリアリティが乏しい、感情移入がしづらいなどの弱点はありますが、似たような展開が多いホラー映画の世界に一石を投じたのではないでしょうか?
投げられた石が、もれなくウィルのメガネを割っている印象ですけれども。笑
総合評価
最後までお読み頂きありがとうございました。